――言語聴覚士を目指したきっかけ、エピソードを教えてください。
私が大学を卒業した当時は、外資系の会社か銀行で数年働き、結婚することが当たり前の時代でした。結婚するまでの期間に何か勉強しておくと良いのではないか……という程度の軽い気持ちで、言語聴覚士の養成校(国リハ)に入学しました。言語聴覚士を目指したきっかけは、正直なところ、偶然でした。
ふとした偶然が、一生もののスキルと縁に繋がったのですね。
山下先生と言えば、特に「小児の構音障害への対応」の第一人者として有名ですが、小児の構音障害に着目した理由はどのようなものだったのでしょうか。
小児の構音障害を目指したきっかけは、口蓋裂の構音障害の授業内容に興味を持ったことです。先生は、たくさんのお子さんの構音障害の状態をテープに編集して、学生に聞かせて下さいました。
授業後、その先生にテープを貸して頂いたのですが、機器の操作を誤って全て消去してしまいました。その後、先生にお詫びしに伺ったところ、「私が録音防止の設定をしていなかったから」と仰って、ご自分で数時間かけてもう一回テープを作成して下さったのです。
なんと! 頭が下がる思いですね……。
その後も、テープを消した学生として私を覚えていて下さり、お会いする度にお声掛けを頂きました。私が教える立場になっても「山下さん、構音障害をお願いします」とお声掛け下さって。
――先生がこれまでに難渋された症例はありますでしょうか。また、その際は如何に対応、解決されたのでしょうか。
勉強や運動など、小学生にとっては構音訓練よりも魅力的なことがたくさんあります。その中で、毎週病院に通わなければならないので、本人も自身の気持ちとの葛藤が起きます。側音化構音のように訓練が長期戦になると、「いつまで通うのか」「通っても治らない」という気持ちになるようです。
側音化構音の場合は、舌の弱い部分の状況を子どもにわかるように示し、舌のトレーニングで舌が変化している過程をしっかり伝えるという方法で子どものやる気を奮い立たせています。音だけでなく、視覚・触覚などフルに動員して訓練しますね。
先の見えない訓練に子どもが嫌気を差してしまわないよう、様々な方法でアプローチする必要があるのですね。
その他、最近の構音障害を取り巻く環境などについて、考えていらっしゃることなどお聞かせ願えますでしょうか。
最近気になっていることとして、成人の機能性構音障害を診てくれる言語聴覚士や病院の少なさです。小学生まではなんとなく訓練を受けていたものの、治りきらず、学校の勉強や就職活動で訓練が中断したままになっているという方が多くいらっしゃいます。
日常最低限のコミュニケーションは可能でも、仕事では言葉を聞き返されることがあり、自分の中でストレスをためてしまうこともあるようです。
前の職場で、側音化構音や口蓋化構音は治療すれば改善するとHPに書いたところ、反響がありました。小学生の場合は、小学校に設置されている通級指導教室での治療が可能ですが、中学生から成人になると継続的に治療できる施設として病院が考えられます。
治療をする側にもされる側にもためになる体制作りが必要なのですね。今後、そういった取り組みがさらに進んでいって欲しいところです。
それでは最後に、セラピスト全体に贈る言葉をお願いできますでしょうか。
研修会を終えると、参加されている方から「先生がどうしてハイテンションなのか理由がわかりました」いうお言葉をいただきます。
(了)
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2018年7月7日(土)東京会場
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