第4回 前編:理想と違った!?理学療法学科に入って感じたギャップと目覚め【千里リハビリテーション病院・理学療法士 増田 知子 先生編】

――増田先生が理学療法士を目指した動機、もしくはエピソードを教えてください。

増田先生は札幌医大卒でしたよね。ご出身も札幌なのでしょうか。

はい。生まれも札幌です。身内が病気になったのを見た影響か、漠然と「何か医療に携わる仕事がしたい」という思いを抱えていました。

自分はせっかく五体満足に生まれることができたのだから、そうでなくて苦労している方の力になれることが何かあったら良いなと。 

それと、不自由なく生活している人の中にも「人の苦労を軽減させるために力を尽くせる人間」と「そうでない自分のような人間」がいるという事実に、なんとなくショックを受けていましたね。

人のために尽くせる人間になりたいという思いはありましたが、一方で理学療法士という職種についてはまったく理解していませんでした。 高校時代、「自分は対人仕事は絶対無理だ!」と思っていたので、もうちょっと無機質なものを相手にしたいと考えていたんです。

進路指導では「臨床検査技師になりたい」と先生に相談しました。そうしたら、先生に「偏差値的に見て『理学療法士』が合いそうだけど、どうだ?」と言われまして。

それがPTを目指す――というか、単純にPT学科を受験するきっかけになったというか。

当時、医学部物理学科理学療法科は人気も偏差値もとても高かったと記憶していますが、偏差値で受験を決められたのですか?


そうです。札幌医大理学療法学科の偏差値が、私の人生を決めました。

こんなことを言ったらなんですけど、私、高校までは割りと成績が良かったんです。当時、理学療法士は一般的に物理療法がメインというイメージが強かったので、「人と人とのふれあいみたいな作業は少なくて済むのかなぁ」と思っていまして。

とんでもない!(笑)

本当、そうですよね!(笑)

私も大学で「そんなわけない。何を言っていたんだ自分は」って気がついたんですけど、高校時代の進路相談では「あ、そうなんだ。人が来たら電気を当てたりすればいい仕事なんだ」と思ってしまいまして。でも全然違いました。まさか、赤の他人と一緒にトイレに入る仕事だなんて思ってもみなかったです。そもそも、大学生になったら勉強しなくていいんだよね、なんて思ってたりして。

ありますよね、大学入学前にイメージする一般的なキャンパスライフ。「大学生って、昼から学校へ行って2限くらい授業を受けて、それからバイトに行くんでしょ?」みたいな。実際は18時までみっちり授業があって、ギャップに気付くという。


そう。とんでもない誤解をしていました。しばらくそれに気付かずに過ごした結果、得意だった勉強も案の定ひどいことになりまして。軒並み主要教科の教員に呼び出される羽目になりました。

この辺の話、カットせずにそのまま掲載しますが、大丈夫ですか(笑)

全然問題ないです(笑)

当時を振り返って、人間、分からないものだなぁと思います。同級生なんてきっと、私が理学療法士として人前で話すようになるなんて誰も想像していなかったのではないかなぁと。

「あの増田さんが!?」みたいな。

今も学会などで、当時を知っている同級生が目の前に来ると、すごく緊張します(笑)

あの時は何かごめん、みたいな。


――大学入学前後で、かなりのギャップがあったのですね。

進学前のイメージと、それだけのギャップがあっても学び続けたわけですよね。何が学習継続のモチベーションとなったのですか?

実は学校というか、理学療法士への道を本当に諦めるつもりだったんです。今なら進路変更をしても、まだ間に合うだろうと。

「人と心と心で対峙する仕事」は絶対自分に向いていないと思ったし、勉強漬けの大学生活なんてごめんだとも思いました。理学療法士の仕事をよく調べず、偏差値だけで安易に学校を選んだ結果、私は厄介な状況に陥って迷っていた。「今辞めれば、他に何か存在するであろう自分のやりたいことを追求できるかもしれない」と思ったんです。

 けれど、主要教科の教員に軒並み呼び出されて――呼び出される私が悪いのですが、本当に侮辱するような形で学業について色々と言われたので「このまま辞めるのも悔しい」と思うようになりました。とりあえず、試験だけは何とか通るようにと頑張りましたね。

ですが、それだけでモチベーションが維持できるはずもなく。どうしようか、と悩んでいるときに、3年生でいよいよ専門教科の履修が始まりました。 それまでの解剖実習でお世話になっていた吉尾先生と病院に行って、より詳しいお話を伺ったり、先生が実際に患者さんに触れながら行うリードニングを見たりしたんです。

先生は数十分の中で「こういう風に考えて、こういう風にやってみようか」と進めていくのですが、患者さんの様子が見る見るうちに変わっていきました。

「この先生に任せたらきっと自分のリハビリテーションは上手くいく」と、患者さんが信頼していくのが手に取るように分かったんです。理学療法士ってこんなことが出来るんだ、なんだか素敵だな、と思いました。

 それまでは絶対に嫌だったんですよ、中枢なんて。もし理学療法士の道を歩むにしても、トレーナーなど少し華やかなイメージがある仕事をしたかったんです。

 (次回へ続く)


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