【第56回日本リハビリテーション医学会学術集会 参加レポート③】「拡大する理学療法士業務とあるべき姿」半田 一登会長(公益社団法人日本理学療法士協会)

連載3回目となる今回は

公益社団法人日本理学療法士協会 半田 一登 会長 が登壇された

「拡大する理学療法士業務とあるべき姿」について

レポートいたします。


文責:張本 浩平(理学療法士・株式会社gene 代表取締役)

   井上 将斗(理学療法士・株式会社gene)

JARM2019 参加レポート②

「拡大する理学療法士業務とあるべき姿」
半田 一登 (公益社団法人日本理学療法士協会)


 半田会長の講演はいつ聞いても刺激的だ。いつも拝聴したのち自分の中で課題が残り、それは僕の日常を侵食する。

 今回、僕が侵食されている課題は『理学療法の奥行とは何か?』ということである。

 半田会長はおっしゃった。『理学療法の職域は広がっている、20年前では考えられないような分野に積極的に広がってきた、ただ、危惧するのは広がっているだけで理学療法の奥行きがないのではないか?』という趣旨の発言だ。

 

理学療法の奥行きとは何か?

 講演の中では、近年、理学療法士の業務は次第に広範囲になり、公的保険下では急性期理学療法・回復期理学療法・生活期理学療法・終末期理学療法と様々な場面が対象となってきた。また、一次予防としての健康づくり・フレイル予防・介護予防・転倒予防・生活習慣予防・認知症予防などの公的保険外にも広がりをみせていると、医療保険下の理学療法、介護保険下の理学療法、一次予防としての理学療法、3次予防としての理学療法、いずれの場にあっても理学療法士は治療者としての役割をしっかりと果たさなければならないと述べていた。

 そう、理学療法士が活躍しているフィールドは非常に広がった。ただ、深みが伴っているのかどうかは別の問題である。


 どういうことか?

 その広がっている領域は、ほんとうに理学療法士でなければならない理由はあるのか? 

 看護師ではダメなのか?柔道整復師ではダメなのか? 作業療法士ではダメなのか?


 つまりは、古くからあるテーマが顔を変えて目の前にでてきているのだ。

 理学療法士の専門性とは何か?ということである。


 個人的には別に決められていないことに対して、特に問題とは思わない、時代とともに自分たちの専門性が変化することは、まれなことではない。看護の歴史を見てみるとよくわかる。

ただ、そのことを議論しないことが問題なのだ。理学療法は予防理学療法・治療理学療法・リハビリテーション理学療法に分けて再編成されるべきであり、その核をなすのは治療者としての専門性であると今のところ僕はそう考える。


理学療法士とは身体のみでなく、心理的側面での立て直しまで考える必要がある。


 臨床は科学だけで成立するものではないということだ。僕が出会った素晴らしい理学療法士の方々は例外なく、人間性まで高みに達している。

 それは、僕の考えであるが、技術や科学だけではどうしようもない世界を何度も何度も体験して、自分なりの臨床哲学を自分で形成していったからだと思っている。

 

 臨床では色々なことがおこる。

 個人的な話で恐縮であるが、笑顔で臨床をするように心がけている。若い時にいつものように笑顔で臨床を行っていた時に初めて担当する方からこういわれた。

『何がおかしい?』

 とても理不尽なことだと思ったし、なんで僕がそんな風に言われないといけないんだとも思った。そういったことは僕だけはなく日本中の理学療法士が経験していることだと思う。


 現在の僕の結論は、『それでも笑顔が正しい』というものだ。初めて後遺症の残る病気になって冷静に人などほとんどいない。サポートを必要としているのだ。

 もちろん、そのサポートは患者さんだけではなく、若い理学療法士も必要としている。

 様々な考え方ができるが、心理的サポートとは何か?という教育をこれから僕たちは積極的に取り組む必要があると思う。


 2040年以降の業務は急激な縮小傾向となることが確実視され、産業保険及び学校保険分野の開拓を急がねばならない。


 人口減少社会と超高齢社会という2つの側面から僕たちの職域を考える必要がある。2040年というと僕は65歳であり、まだ働いている可能性は高い。先日、理学療法士等の需要予測が厚生労働省から発表されたが、あの手の予測が当たったことはないので、その通りになるとは思っていない。それは、何も予測が悪いと言っているのではなく、それまでに何らかの手を打つことができる時間が残されているため、予測された未来を回避する努力をした結果だと思う。

未来予測で確実なのは人口動態だけだ。

 

 僕は医療職の中で理学療法士は最後まで残りやすい仕事だと思う。どれほどAIやロボットなどが発達したとしても、人間と人間が向き合い、喜び、悲しみ感情を共有する体験に変わるものはないと考えているから。

 そのことを踏まえて職域の拡大を考える必要がある。


 最後に訪問リハビリテーション分野での仕事をしている中で、最近は治療者という考えは薄れてきており、支援者としての関わりを意識していることが多くなっているように感じている。半田会長の話を聞いて、今後、理学療法士として地域で仕事を続けていくためには、理学療法士の軸である運動療法と物理療法を用いて「健康」を目指すことができ、尚且つ、その結果を数値化することのできる理学療法士になる必要があると感じた。

 半田会長、素晴らしいご講演ありがとうございました。