【第56回日本リハビリテーション医学会学術集会 参加レポート②】教育講演15「パーキンソン病と進行性核上性麻痺の摂食嚥下障害」野﨑 園子 先生(関西労災病院 神経内科 リハビリテーション科・医師)

連載2回目となる今回は

関西労災病院 神経内科 リハビリテーション科・医師 野﨑 園子 先生が登壇された

教育講演15「パーキンソン病と進行性核上性麻痺の摂食嚥下障害」について

レポートいたします。


文責:張本 浩平(理学療法士・株式会社gene 代表取締役)

JARM2019 参加レポート② 
教育講演15「パーキンソン病と進行性核上性麻痺の摂食嚥下障害」
野﨑 園子 先生(関西労災病院 神経内科 リハビリテーション科・医師)


日本で訪問リハに関わっている療法士で、パーキンソン病(以下PD)の摂食嚥下障害に悩んだことがない人はいないと思う。訪問リハの現場では摂食嚥下に関わる様々な状態がある。


食事を目の前にして、まったく動けなくなる人

スプーンですくってそのままの姿勢でいる人

口腔内で嚥下のタイミングが計れず長時間咀嚼している人

そして、誤嚥する人


パーキンソン病診療ガイドライン2018では、今後のPD患者の増加を予測している。

『1980年に1千万人程度であったが現在は3千万人以上となり,さらに今後も増加傾向が継続

すると予想されている.これに伴ってパーキンソン病患者数は今後さらに増加していくと推定され,少なくとも65歳以上の高齢者人口の増加が続く今後20年程度は,患者数の増加が続いていくと予想されている』


現場感覚としてもこの増加というものは納得できる。


今回の野﨑 園子 先生の教育講演は、訪問リハの現場で非常に有用な示唆に富んだ内容が盛りだくさんであった。それを読者と共有したいと思う。


1 wearig-offによる摂食嚥下に関する問題は、薬剤の食前服用を検討する


よく、在宅であるパターンだと思う。どうして自分は気が付かなかったのだろうかと恥ずかしく思う。そうだ、食後での服用ではなく食前の服用が可能かどうか主治医の先生に相談すればよかったのだ。

服薬に関するお話の中で、服薬がきちんとされているのかどうかの確認が大切であるとお話もあった。たくさん見てきている。PD患者さんのお口の中で嚥下されていない錠剤。

きちんと服薬して、それでも症状が改善されないのか、それともきちんと服薬自体ができていないのかは、次元の違う話である。


2 神経内科疾患における診断の難しさ


以前より、神経内科の先生のお話を聞く機会がなんどかあったが、診断の難しさについて言及されることが多くあった。今回の野﨑先生も難しいというニュアンスが切実に私には伝わった。これは実は訪問リハにとって重要な問題である。訪問リハの臨床場面ではその診断名によって使える制度が大きく変わるからである。診断が難しいということは裏をかえすと診断が変わる可能性があるということであり、そのような場合に適切な制度選択を行わなければ、患者さんの不利益に繋がる可能性がある。

個人的な感想であるが、その診断の難しさについて切々と語る野﨑先生の姿が印象的であった。本当に難しいことがたくさんあるのだと伝わる。


3 パーキンソン病と進行性核上性麻痺(以下PSP)は同じような部分と違う部分がある


摂食嚥下から少し話がずれるが、訪問の現場でこの違いを痛感するのは、PSPの方は転倒を怖がらないというのか無頓着というのか、そういったことがある。PSPの方はPDの方に比べて思考の緩慢が特徴になるとお話があった。

そうか、そういうことか。この在宅での転倒に関するかかわりでとても悩むのだ。

自宅での行動制限は実質不可能であり、本人が動きたいという意思があればそれを尊重するしかない。私はご家族と相談して、比較的移動の多い場所を百均ショップのマットを敷き詰めたり、骨折防止のためにヒッププロテクターなどを活用していたが、行動的な矯正が難しいのならば転倒しても大丈夫な環境を作るしかないのだ。


4 PSPの方の摂食嚥下障害の特徴


PDよりも早く発症し、重症化も早い。肺炎が重症化しやすく窒息のリスクも高い。食事をかきこむ、口にためたまま止まる、反り返って食べるなどの摂食動作異常が目立つ。

このことから考えられることはPDの方よりも摂食場面においての環境調整および見守りがかなり必要となることだと思う。反り返り等の問題に関して、車椅子ではティルト機能とリクライニング機能が必要となるが、在宅ではその大きさから導入できる場面とできない場面がある。そうなったときに、自宅のベッドやクッションなどを用いてポジショニングに正面から向き合う必要がある。


5 メトロノーム訓練の有用性


このメトロノーム訓練という新しい方法を聞けたのが、私にとって一番の収穫であった。PDの方の多くにリズム障害が発生すると講演の中でお話があった。咀嚼や歩行などの自動的な運動に関してリズム障害が大きな因子になることがよくわかる。訪問の場面で、大きな音でリズミカルな曲を流して一緒に歩行練習やADL練習をすることはよくあったが、摂食嚥下という場面では、音楽ではあまり良い反応がない印象があった。音楽よりもメトロノームのようなリズムに特化した音でアプローチするのがよいのかもしれない。さっそくSTと相談して、アプローチ法など検討したいと考えている。


6 LSVT(Lee Silverman Voice Treatment)におけるSkypeの可能性


私は理学療法士なのでLSVT- BIGに関してはある程度理解していたが、発声等へのアプローチであるLSVT- LOUDに関する有用性をお聞きした。

大きく可能性を感じたのは、SkypeでのLSVT- LOUDのアプローチも始まっているということである。とても嬉しい話だ。

日本における言語聴覚士は他の療法士に比べて少ない。在宅分野に限っていると、PT6割OT3割そしてSTが1割ほどである。

だから、私は理学療法士であるにも関わらず摂食嚥下障害のある方をたくさん担当してきた。しかし環境調整をしてSkypeでこのようなSTの専門的な訓練を受けることができるのなら、素晴らしいお話である。もしも、このような取り組みが世の中に広まるのならばなんでも協力したいと考えた。


最後に、野﨑先生のご著作を紹介する。

患者さんに伝えたい 摂食嚥下のアドバイス 55のポイント


講演の中で、野﨑先生が『長期の関わりになるので、ご家族へのフォローを』という言葉があった。まったく同じ思いである。在宅での関りをしていると、ご家族と一緒にチームとして支えあわなければ出口の見えない在宅生活は乗り切ることはできない。この書籍はご本人とご家族にどうすれば伝わるのか?という視点で書かれた本のように感じる。

もちろん、私たち療法士がみても参考になるが、この本の使い方にはこう書いてある。


「以下の条件のもとで、患者さんにコピーしたものを直接お渡しすることができます。」


その条件に関しても難しいものではない、普通の家族指導をしていれば全く問題にならないレベルである。

勝手な想像であるが、きっと野﨑先生は摂食嚥下のアプローチで多くのどうにもならない問題や理不尽なことがあり、そして専門家だけではなく患者さんやご家族への伝わるものが必要だという結論になったのではないかと思う。


訪問リハで必ず担当するPDの方には摂食嚥下の問題が高確率で発生します。ご本人ご家族にお渡しできるものとして本書をお薦めいたします。


野﨑先生ありがとうございました。学びのある1時間でした。臨床現場に必ず還元いたします。