第9回後編:伸びる療法士とそうでない療法士。その違い、見分け方とは?【諸橋 勇 先生(いわてリハビリテーションセンター 機能回復療法部 部長・理学療法士】

――先生がこれまでに難渋された症例、そしてそれに如何に対応されたかを教えてください。

そうですね、難渋したケースは社会的な問題や高次脳機能障害、障害受容などの心理的な問題のケースが多かったです。今回はコンディショニングが一つのテーマなので、そのことに関連した、一側面でしか考えていなかった若い頃の症例を紹介します。

是非、よろしくお願いいたします。

50歳前半の、脳梗塞右片麻痺の男性の患者さんを担当したことがありました。比較的下肢の麻痺は軽く、年齢的にも職場復帰を目指して、精力的にリハに取り組んでおられる方でした。

しかし、歩行も安定し、右足部の背屈運動ができるにも関わらず、右側足部の歩行時の引きずりとつまずきが発生し、問題となっていました。職場復帰にあたり、つまずきの問題などから「装具作成をしてはどうか」という意見も主治医から出てきました。ですが患者さん本人は、「装具は絶対に嫌だ」と拒否。私も、何とかつまずかないようにと、下肢で起きている問題なので下肢に注目し、筋力の向上・下肢の動かし方・歩容の指導などを中心に患者さんと一所懸命取り組みました。しかし、意識している時はいいのですが、他に意識が向くとつまずいてしまうのです。何とか患者さんを説得してリストラップを作成し、装着したにも関わらず、やはりつまずく現象は改善しません。患者さんと共に途方に暮れたことと、自分の無力さにショックを受けた記憶が蘇ります。

できることをし尽くしたのに、何故……とやるせない気持ちになりますね。

その時は若く、それ以上の解決策を持たなかったので、そのまま不幸にも退院となりました。今現在、歩行が問題だと外来通院している患者さんを診て、「むしろ麻痺側の脚の良い機能を発揮していない」と感じることがよくあります。その原因の一つが、体幹のコンディショニングができていない状態で歩行をする弊害に療法士が気づいていないことです。

体幹に問題があると、歩行するだけで「体幹を支える」「下肢を動かす」という二重の課題を行っていることになります。体幹の運動制御は通常無意識、無自覚に行われますが、それを意識的に行っているため、注意や他のパフォーマンスにも影響を生じさせます。

コンディショニングが十分でないと、なにげない動作ひとつに大きな負担がかかってしまい、本来なら十分に解決し得たであろう問題の改善をも阻害してしまうのですね。

若かった当時、このことに気がついて体幹のコンディショニングを行っていれば、前述の患者さんに装具はいらなかったかもしれません。また、現在の実践の経験から、体幹のコンディショニングによって歩行が改善したのではないかと悔しい思いがあります。

ですから、この記事をご覧の皆様も、運動学習するためのコンディショニングという視点で患者さんを是非診てほしいと思います。

――最後に、若い世代に向けた言葉をお願いできますでしょうか。

時々、「伸びる療法士とはどのような人でしょうか?」「また、それは予測できますか?」と訊ねられることがあります。そう訊ねてこられた方に、その方が今までやってきたスポーツを聞いた上で、「あなたがそのスポーツをやっている小学生低学年の子供を見て『この子は将来、きっと……』と何か感じることはないですか?」と問い返してみます。

すると、野球などをやっていた方からは、「練習している中で、この子はうまくなるなど大体分かる感じがします」と答えが返ってきます。次に、私が「あなたは、その子供のどこを見ていますか?」と問うと、「上手い子は優れた点ですが、下手でも一所懸命に取り組んで、野球に真剣に向き合っている子供には可能性を感じます」と答えが返ってきます。

勇気付けられる言葉ですね。飛びぬけて優秀な点など無くとも、地道に努力を重ねられる人物は最終的にそうでない方を伸び抜いていくと。

ただ、「う~ん、この人は厳しいかも」と思っていても、見違えるほど成長し、素晴らしい療法士になる方も稀にいます。そのような方は、メンターと言われる自分を成長させてくれる素晴らしい人と偶然なのか、必然なのか必ず出会っています。

メンターですか。職場や学校などで出会えれば良いですが、身近に手本となる方が居ない場合は、講習会や学会などに積極的に参加して、外部にも目を向けて探す必要がありますね。

感性豊かで、何でも吸収でき、時間的にも余裕のある若い時期にメンターと出会うことが最も大切だと思います。よく、三つ子の魂百までと言いますが、私は交流分析を学んでこれは真理だと確信しました。

(了)


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