医療従事者が様々な症状を抱えるクライエントと向き合うなかで、より良い治療を行うために、双方が円滑にコミュニケーションを取り、良好な信頼関係を築くことは不可欠である。一体どのような気持ちでクライエントと向き合うのが良いのだろうか。
「リハノメ」では今回から、コラム連載企画の第一弾として、「アンガーマネジメントの考え方及び実際に怒りを上手くコントロールする方法」を数回に分けてお伝えする。
クライエントから投げかけられた、怒りの言葉
私が講演でよく話をするのが、クライエントに「お前に俺の気持ちがわかるのか?」という問いを臨床の中で3回ほど投げかけられたことである。
参加者に「同様のことを言われたことはあるか?」と問うと、臨床10年以上の方はほとんど経験があるようだ。面白いことに、ケアスタッフの方や看護師の方はその割合が減るのだが、それは職業特性の違いからであろう。臨床カウンセラーは、共に機能・生活を再建するという目標に対して、クライエントの努力と感情的側面のコミュニケーションが絶対に必要になるからだと思う。
感情労働という概念は1980年代よりあった
ホックシールドという人が、1983年に「管理される心――感情が商品になるとき」 という著作を発表した。アンガーマネジメントを説明していく上で、感情労働という概念は非常に参考になる。
また、看護師における感情労働の研究は、いくつか散見され、日本でもある程度進んでいると認識しており、参考になる論文が沢山ある。
そして脳科学の側面からも、怒りというものの理解を考えるのは説明しやすい発表が多々ある。ミラーニューロンや、男女の脳梁の大きさの違い、扁桃体と海馬との関係などだ。
まず、ホックシールドの著作は、キャビンアテンダントの調査研究を中心に発表している。画期的なことであるが、医療職への適応は少しアレンジを加えて考える必要がある。
それは代替可能なサービスの提供と、代替不可能な命と生活というものへの技術の提供であるからだ。二番目に挙げた看護師の研究も非常に参考になるが、感情抑制場面は、リハスタッフ独特のものがあるため、この分野でのリハスタッフ独自の調査が必要だと思っている。
伝え方の変化は経験から
さて、私が人生で初めて、冒頭の言葉「お前に俺の気持ちがわかるのか?」を投げかけられた時に、答えた言葉は「よくわかります」だった。振り返って今思うと、それは嘘だ。分かるはずなどない。70代で片麻痺という状態になり、孫におもちゃを買ってやることもできないと人生に絶望している人の気持ちが、20代の若造に分かるはずはないのだ。
だから2回目からはこう答えている。「知りたいけど分からないのです、せめて言葉で教えてください」と。それは多分、注意深く本当のことを言っている。
今は、認知症のある方から暴言を言われても、腹が立つことはないが、昔は違った。
すごく腹立たしく、なんで私がこんな風に言われないといけないのか? と思ったものだ。
しかし今となっては年齢を重ねたせいか、経験を積んだせいかわからないが、腹が立たなくなった。自分の中で、この言葉をこの人が言っているのではなく、認知症というものがこの人にそう言わせているのだと解釈できるようになったからである。
それは、真実ではないかもしれないが、私が納得できる解釈に巡り合えたという幸運がある。
多分、私たちは臨床場面でこの感情との向き合い方を学んでいくしかない。教育の中では、基本的に感情を抑制することしか教えてくれないからだ。
怒っちゃだめよ、であり、武士は食わねど高楊枝であり、和を以って尊ぶだ。
研究と経験の両面から、少しずつ色々なことをすすめていきたいと思う。
(次回に続く)
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