【リハNEWS】第3回:「VR・AR」は医療・介護・福祉にも? 最先端技術で業界はどう変わる

今、急速に普及が進み、世界で注目されているVR(仮想現実=Virtual Reality)

ゲームやアプリなどエンターテインメント業界での導入が脚光を浴びがちですが、最近は医療・介護・福祉現場への導入も進んできています。VRが具体的にどのような場面で活用されているのか、また今後どのように業界を変えていくかなど、愛知淑徳大学人間情報学部にて感性工学およびヒューマンインタフェースの研究・開発をされている國分 三輝 准教授にお話を伺いました。


〈はじめに〉ARとVRって?

 AR「拡張現実(=Augmented Reality)」VR「仮想現実(=Virtual Reality)」

ARは現実世界に仮想の映像を重ね合わせたものです。最近だと「ポケモンGO」などが有名ですね。現実の風景にキャラクターのCGを重ねて表示することで、そこに本物のキャラクターがいるかのように見せかけることが出来ます。ほか、空中に投影したキーボードやタッチパネルを操作する、教科書や図鑑の平面写真をカメラで捉えると3DCGの人物が浮かび上がるといったものもこれに該当します。

一方で、VRは仮想世界にユーザ自身が飛び込むものです。ARは現実が主体であるのに対し、VRは何もないところに作り出した空間そのものが主体です。たとえば、遥か遠くにある店舗や会場を360°内覧できたり、観光地をまるごと再現してその中を自由に歩きまわれたりします。

國分先生が制作したVRコンテンツ。ヘッドマウントディスプレイ(頭部に装着するディスプレイ装置)の装着者の腕を捕捉して、映像内に腕の動きを再現することで、あたかもキャラクターに自分の手を伸ばして触れているような感覚を与える。映像は360°作りこまれており、天地や背面にも満天の星が広がっているので、装着者が周囲を見回すと宇宙空間にいるような視界を得られる。

株式会社豊田中央研究所にて車の安全と感性工学について研究していた國分先生。最近、その関係で高齢歩行者に関してNHKから取材を受けたとのこと。現在は愛知淑徳大学にて感性工学やヒューマンインタフェースについて教鞭を振るわれている。担当するゼミではAR・VRを使用したソフトを制作。


――医療・介護・福祉業界への導入が進んでいるという技術ですが、具体的にどのような場面で活用されているのでしょうか?

有名なところでは手術現場ですね。現在でも、手術前に患部をスキャンして2D画像から情報を得るという方法は用いられていますが、最近ではヘッドマウントディスプレイを着用して手術室で3Dの画像をリアルタイムに見るといった活用が始まっています。

3Dの画像をリアルタイムでとは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

たとえば脳画像なら、スキャンしたデータを平面の画面に表示するのでなく、3DCGで「脳そのものの形」を目の前に再現できるわけです。平面だと奥行がどうしても分かりにくい部分がありますが、三次元画像なら臓器や腫瘍や血管がすべて立体的に見えるので、この神経はこう来ている、この血管は裏側に回っているからここに気をつけよう……なんて手術計画が立てやすくなるのではないかと。

先進的な医師の一人で杉本 真樹 先生という方がいらっしゃるのですが、既に実際にこの手法を用いて手術に臨まれています。また、MRという技術も活用されていくでしょうね。

MRという単語は初めて聞きました。ARやVRとはどのような違いがあるのでしょうか。

MRは「複合現実=Mixed Realityです。ARやVRが現実に仮想の物や世界を顕現させるものとすれば、現実世界と仮想世界を融合させた世界をつくる技術です。MRの世界内では、仮想世界のモノと現実世界のモノが相互に影響します。たとえばポケモンGO、これはARです。これがMRになると、見る者の立ち位置によって対象の正面が見えたり背面が見えたりするんですね。そしてポケモンが現実の「あなたの腕」を認識して手を駆け上ったり擦り寄ってきたりするようになります。つまり、現実と仮想の境界が判らないほどミックスされた状態とでも言いましょうか。

話を戻しますと、このMRは術前術後の確認ではなく手術中に用います。複数人がディスプレイを装着したまま手術室に入るんですね。装着者の視界には、現実の脳と、半透明に透過された仮想の脳画像が映っている状態になります。そして仮想の脳画像に手を伸ばすと、3DCGに手に触れて360°回転させることができる。これが装着者全員に共有されるんです。向かい側にいる人も隣にいる人も全員が同じものを同じ角度から見て、いつでも「この辺りに腫瘍がある」など確認ができる。

それは大変直感的に操作できていいですね。

しかもリアルタイムに情報が共有できるのは便利です。

そうなんです。「ここが切除ラインね」「こうやって切っていきますよ」と確認するだけでなく、ディスプレイを装着したまま手術を進めていける。みんな同じものを立体的に確認できるし、何より見やすくてわかりやすい。ちなみに「そんなVR用のデータで大丈夫なのか」と心配される方もいらっしゃるのですが、基本的に医療用の三次元データなので全く問題ありません。これまでも医療の現場で実際に使用されてきたデータを三次元にしているだけです。


――医療における導入事例についてよくわかりました。介護や福祉においては、どのような活用方法が想定されるでしょうか?

外出が思うように出来ない要介護者のための旅行体験や、医療従事者の学習のための認知症体験などが既に開発されていますが、他にはどのようなものが登場してくるでしょうか。

認知症体験に類似のサービスとなりますが、発達障害体験などが考えられますね。

VRサービスは大別して【要介護者向け】【介護従事者向け】が主流になると予想されますが、発達障害体験は後者に該当します。発達障害は謎に包まれた存在で、一般に「感覚の過敏」などと説明されても簡単に理解されるものではありません。はたから見ても理解しづらいものなので、どうしても周囲には「あの人ちょっと変わってるよね」程度のことに捉えられてしまう。見えている世界、聞こえている世界をVRで体感すると、理屈でなく体感できるので理解が得られやすいのではないかと。

なるほど、周囲の理解を得る一助となるわけですね。介護従事者向けとのことですが、そもそも障害に関する知識の少ない医療従事者以外の方に利用して頂くのも効果的かもしれませんね。実際にどんな世界が見えているのかなど、言葉を尽くすより一度見たほうが鮮明に判るのではないかと思います。他にもVR・ARの利用シーンは出てくるでしょうか?

これは僕がヒューマンインタフェース学会で効果発表したものですが、モーションセンサーを利用した子供用のロコモティブシンドローム予防ゲームを実際に制作しました。

プレイヤーの全身を利用して操作するゲームで、遊んでいるうちに自然と屈伸運動や伸長運動が出来るようになっています。

國分先生とゼミ生が制作したロコモティブシンドローム予防ゲーム。可愛らしい見た目とは裏腹に、高スコアを狙うには全身の筋肉を使用する必要がある。シューティングと回避ゲームの2本を制作(動画はシューティング)。

モーションセンサーとして利用されているのはXbox360のKinect(キネクト)ですね。かつては高価だったセンサー機材が大変安価に入手できるようになった影響で、一般への普及も目覚しいものがありますが、こういったソフトも一般家庭に広く提供されるようになるといいですね。ところでこのゲーム、思ったよりも広い関節可動域と速い反応速度を求められるようですが、高齢者用でなく子供用として開発されたものだからでしょうか?

そうです。これまで高齢者によくみられたロコモティブシンドロームが、近年子どもたちに急増しているんです。原因は主に、睡眠不足・外遊びの減少・栄養過多と低栄養など生活スタイルの変化ですね。


――子どもが好む遊びを逆手に取ったわけですね。直感的に操作できる先進技術ということもあり、興味も引きやすそうです。

近年、両腕が耳の横まで上がらないという子どもがかなり増えていまして。子どものロコモティブシンドロームに関しては様々な調査があって、「どうも怪我しやすい子どもが増えている」といった話から始まっているんですが、調べてみると「下半身の筋力や柔軟性が非常に下がっている」のが原因らしいんですよ。だからスポーツテストみたいなものでは体力は実は下がってないんです。「動かなくなると、余計に動けなくなる」という悪循環。これを何とか改善できないかなと。

まるで高齢者のような症状ですね。子どものうちから、そこまで酷い症状を示すのですか?

そうです。しかも、かなりの人数がそうなんです。五十肩のようにほとんど上がらないという子もいます。そんな柔軟性ですから、転んだらもう、グキッと骨折してしまうんですね。あと、バランス感覚や筋力もないので、よく転ぶんです。本当に高齢者と似ているんですよね。「転びやすく、体が硬い」と。若いからまだ骨は折れにくいのですが、「このまま年を経ると非常にリスクが高い」と医療介護の業界で言われていました。

僕は研究・開発者なのでリハビリテーションに関しては専門家ではありませんが、それが気になっていたんです。そこで「VRで遊ぶのなら、柔軟性がない子どもたちのために柔軟性を上げるような動きをさせてみよう」「下半身の体幹の筋力が弱いのであれば、それを高めるようスクワットを取り入れてみよう」といった流れで開発に至りました。

高齢者のロコモティブシンドローム対策としても運動にスクワットが取り入れられているのですが、実際問題「ロコモ体操をしましょう」と言って子どもを誘っても、中々乗り気になってもらえないんですよね。それを「自然にゲームやっているとできちゃう!」みたいなものがあれば良いなと思いまして。

先端技術やデバイスを活用して自然に暮らしを豊かにするというコンテンツがもっと増えていくと良いですね。

そうですね。あと、ポケモンGOやWii fitなども高齢者のほうが熱心にプレイされる方が多かったですし、ロコモティブシンドローム予防ゲームも子ども以上に浸透するかもしれませんよ。

実際、発表のために大人から子どもまでプレイして頂いたのですが、大人の方が「面白い!」と言ってくれた方は多かったです(笑)

ポケモンGOも、自然と外に出て公園などを散歩してくれるようになるのが良いですよね。継続して遊んでいる高齢者にとっては、非常に健康の為になっていると思います。ただのゲームではなくて、暮らしを変えているというか。こういった人の為になるものが増えていくと面白いですね。


協力:國分 三輝 先生

愛知淑徳大学 人間情報学部 准教授

筑波大学 第二学群 人間学類・筑波大学大学院 環境科学研究科 環境科学専攻

博士(人間科学)(早稲田大学)


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