第2回 後編:悩み苦しんでいるあなたへ~これから脳を学ぼうとしている方や、悩んでいる療法士に向けて【千里リハビリテーション病院 副院長・理学療法士 吉尾 雅春 先生編】

――これから脳のシステム障害などについて学ぼう、という方へのお言葉をいただければと思います。

よろしければ、やる気に満ち溢れている人に対してよりも、「自分は吉尾先生のようにはなれない」「どうせ自分はダメだ、未来が見えない」と悩んでいる方に向けたお言葉をお願いします。「あの吉尾先生だって何も知らないころ、理学療法士1年目のころはあったんだ」と思えるような激励を。

私にも1年目はあったどころか、そもそも理学療法士になるなんてまったく思ってなかったのです。

たまたま両親が脳卒中で、私は12人兄弟の末っ子でした。長姉とは24歳も歳が離れている、そんな家庭で育ちました。私は生物が大好きで、高校時代はずっと生物研究部に所属していました。一時期は「獣医になりたい」とさえ思っていました。

脳卒中をよく診ていた義理の兄、つまり長姉の婿なんですけど、父が彼のことを大好きで、「あなたの名前の一字をこの子に頂戴」ということで、私は「雅」春になりました。

その兄が「理学療法士という職業が新しく出来たよ」と教えてくれたのです。理学療法士は脳卒中の患者さんをみるのだと。


――ほぼ学習無しで臨んだ面接はどうでしたか?

面接で校長先生に、「吉尾くん、英語は成績良いが物理は悪いなぁ」と言われました。

「獣医学部行こうと思っていたので、物理を勉強していませんでした。つい最近、九州リハを知りまして……」と答えると、「そうか。OTになる気はないかね」と勧めてくれたのですが、私は「お、OTって何ですか?」と困惑しちゃって。PTという存在すらほんのちょっと前に知ったばかりですから(笑)

そうなりますよね(笑)

「吉尾くん、OTを知らないのかね!?」と校長先生はおっしゃいましたが、私はそこで初めてOT、つまり作業療法士という職を知ったんです。説明してもらえませんか? と言ったら、残りの面接時間の全部を使って校長先生が作業療法士の説明をしてくれました。

でも、予備知識がなさ過ぎてよくわかりませんでした。帰り道、「面接らしいことほとんどしてないけど大丈夫かな……」と思っていたら、理学療法学科に合格しちゃいました。そんなレベルで、私は理学療法士の道をスタートしたんですよ。


――「こんな状態からでも前に進めたんだから大丈夫だよ」と。

はい。途中で臨床に科学はないと思って、ラーメン屋やコーヒー屋になろうと思ってみたり。私はそんな人間なんです。けれど、あの患者さんに会ったときに、理学療法士としての自分に火がついちゃいましたね。それから立て続けに何件か、そういうことがありました。そういう体験をするうちに、「そうか、俺は何でこの世界に入ったかというと両親のことがあったからだ」と思い出したんです。

父は小学校の校長をしていて、人間がすごく好きな人でした。色んな人に分け隔てなく接する、偉ぶったところのない立派な人でした。3歳で父を亡くしたのに、何故か、父のことをそう思っています。「自分はその父を超えたい」とはっきり自覚したんですね。

そもそも理学療法士を目指したきっかけがそれでしたし、やはりそういう障害を持った方々に一個の人間として対応できるようになりたいという自分の中の夢がありました。

「そのためにはもっとこうしなければならない」と思って取りくんだのに長く挫折してしまって……という出来事もあったのですが、思いをきちんと形にしていくと、「患者さん一個の人間を何とかしたい」というのがやはり自分の目指すところなのだと決着がつきました。


最後に、悩んでいる医療関係者と、これから学びを深めようとしている方に、3つの言葉を贈りたいと思います。


1つ目。

Where there is a will, there is a way.

ゼロはどこまで重ねてもゼロでしかないわけですが、やる気さえあれば道を切り拓くことはできます。もがけば道は見えてきます。藪の中でもがけば光は見えてきます。自ら壁を作らないことです、壁は光を通してくれません。

人間が好きでこの仕事ついたのなら、必死になれるものです。必死にやっていれば、どこかで必ず花開きます。その道は開けると、自信をなくしている方には伝えたいですね。


2つ目。

動き出せ、夢の中にある魂。

これ、ある居酒屋のトイレに貼ってあったのですが、私が大好きな言葉のひとつです。

あなたには夢があるでしょ。あとは一歩踏み出すだけ。

いくら思うことがあっても、やらなければ思っていないことと同じです。

動かなければ。要は具現化することです。夢を形にするためには、あなた自身が動かなければ始まらないのです。


3つ目。

人なみならば人なみぞ、

人なみはずれにゃ人なみはずれん。

夢を叶えるためには、自分を大切にするためには、人並み外れたことをしなきゃならない。これは中学を卒業するときに、一番上の兄が色紙に書いてくれた言葉です。私はこの言葉に励まされてここまで来ました。皆さんも是非、それくらいの意気込みで立ち向かい、取り組んでください。

そして、ひとなみはずれた個別性、あなた自身を大切にしてください。そして、折角リハビリテーションの世界で生きているわけですから、個別性を持ったひとりひとりの人間性を大切に受け止め、向き合って欲しいと思います。

(了)


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